2005年03月10日

●マイクロクレジット需要の利子弾力性

続けて開発セミナーでMorduch(NYU)の報告を聞く。マイクロクレジットの世界では「貧困層の資金需要の利子弾力性は小さいから、利子率を上げてマイクロクレジット機関の採算性を向上させるべきだ」といわれているらしい。
この研究ではそのことが本当かどうかを、ある機関の膨大なデータ(5千人の数年間の全取引を記録したもの)と
その機関が特定地域対象に行った利子率引き上げを自然実験として検証していた。その結果資金需要の利子弾力性は大きいという結果がある程度説得的に示されていた。これだけ豊富なデータと外生的な利子率変動がありながら貸し出し資金の用途(消費か事業かとか)の情報がないので貸し出しが減ったことがわかってもその結果消費や事業や所得にどんな影響を及ぼしているかがわからないのが残念。

彼によるとマイクロクレジットではグループ融資や連帯債務という側面が
これまで経済学から注目されていたが、個人融資でも返済率はきわめて高いことから
最近は1頻繁(週1、月1)に細かく返済することを求めていること、
2最初はごくわずかな金額から取引回数が増えるごとにだんだん融資額を増やしていくこと、
の2つのインセンティブ効果が注目されているということです。
(1年前のグラミン銀行創始者のムハマド・ユヌスが講演したときも
「重要なのはグループ融資ではない。貧しい女性たちは他の融資の選択肢が
限られているのでグラミンでの信用履歴を傷つけるコストが大きいから
必ず返してくれるのだ。」といっていました。)

あと今まではマイクロクレジット機関の採算性が問題とされてきていて、実務では
「貧困層の資金需要の利子弾力性は小さいから、
利子率を上げてマイクロクレジット機関の採算性を向上させるべきだ」
ということが言われているそうです。

今回の報告は「実は貧困層の資金需要の利子弾力性は大きい」というものでした。
ダッカのSafe Saveというマイクロクレジット機関で実験的にある地域で利子率を上げたが
他の地域で上げなかったというのを利用して、その機関の顧客全員の全取引データ
(何月何日にいくら貯金していくら既存の融資の利子分を返済して、いくら新規融資を受けたか
などが全部記録されている)で利子率の借り入れへの影響を見たものでした。

ただ、この研究では借り入れを減らした結果、どれだけ個人の所得機会に影響を
与えたかというのかは残念ながらわかっていません。
というかそもそも、これだけ世間の注目を集めながら、
今のところマイクロクレジットが貧困層の所得、教育その他のパフォーマンスに
正の影響を与えているということを定量的に説得的に示した論文はないはずです。
(説得的でないものならもちろんあります。たぶんセレクションバイアスを説得的に
回避するのが至難なのだと思います。)